「ファスト風土化する日本」三浦展


ファスト風土化する日本―郊外化とその病理 (新書y)

ファスト風土化する日本―郊外化とその病理 (新書y)


誰しもが漠然と感じている
高度成長期、55年体制崩壊以降の日本の現在の行き詰まった感じの根拠を
確かなデータと調査、明晰な分析によって浮かび上がらせている。


その根拠としてまず犯罪件数の増加に着目。
東京よりも地方、
それも繁華街のある都市中心部よりも農村部で大きく増加。
この原因を地方の郊外化に見出し、問題の端緒としている。




流れとしてはこうである。
バブル崩壊後の景気対策における公共投資
特に高速道路、新幹線の整備、開発によって
経済化、消費社会化を一気に促進し、地方の生活を一変させてしまった。
幹線沿いに大手企業の工場、流通拠点ができ、
巨大ショッピングセンター、ファーストフード店、ディスカウント店、
さらにはパチンコ、カラオケ、テレクラ、サラ金、ラブホが乱立した。(※1)
こうして地方のあらゆるところに似たり寄ったりの東京郊外が出現。


かくして過去20年の交通網の整備、「総郊外化」(※2)は
地域固有の歴史的風土を徹底的に崩壊させた。
日本中の地方が画一化、均質化し、「マクドナルド化」(※3)し、
固有の地域性を喪失した。
ファスト風土」と化したのである。


かつて地方に持っていたのどかなイメージは幻想と化し、
現実には、奇妙にねじれた形で都市化し、消費社会化している。(※4)


高度成長期までは都市部は工業を担い、
地方の農村部は農業を担っていた。
1980年代になると、都市部は消費中心の社会となり、
農村部に工場が多数移転し工業を担うようになった。
今日では、工業はアジアに移転してしまっている。
土地の売却益と建設費で潤った地方も
都市部同様消費中心の社会となった。
しかし地方には内発的な産業はなく、
だから道路建設が終われば不況となる。
残ったのは働かずにして金を得ることを当然視する
退廃的な価値観の蔓延である。


彼らに働く意欲はない。
家も車もある。
楽をして適当に生きることだけである。


構造改革規制緩和、自由競争、自己責任という美名のもとに
地域社会は崩壊し始めている。
郊外⇔都市と上手く循環していた時代は終わったのである。


現代の消費社会の主役が実は地方、郊外化にあることを見出し、
ファスト風土」と一語で言い表してしまった。(※5)


では何が問題か。
郊外には生まれ育った地域の異なる人々が集まって住む
→故郷の喪失
→共同性が育みにくい
他方、郊外住宅地の住民は年齢・所得・家族構成などが似通って、
小さな違いが大きな差別に感じられる
→学歴競争など
子供中心の消費生活になりがち、
車社会となり、子供は親に依存
→子供の社会化が阻害


さらに21世紀に入って新たな問題が追い討ちをかける。
上記のモータリゼーション化に
インターネット、携帯電話が加わり、
時間や空間の制約から解放され、
もともと大量の人間による匿名空間であった都市と同じく
地方でも、いつでもどこでも匿名空間が出現することとなった。
誰もが突然悪所(犯罪)に出くわす可能性があるとうことである。


高度成長期以前は農業社会の中多くの国民が
生産共同体として地域社会の中に埋め込まれていた。
高度成長期、雇用者、勤め人となり、
核家族化、家族それぞれが分業化、生活時間を異にし、
職場から離れた郊外住宅地に住むようになり、
会社主義という生産共同体と
マイホーム主義という消費共同体に代替された。
しかし1970年代後半、経済大国となると
消費共同体としての家族は機能しにくくなった。
家族の目標喪失状況が生じ、個人生活主義が台頭した。


最終章では打開策を提示している。


新しい価値観の台頭。
関係(コミュニケーション)と関与(コミット)。
共同体から共異体への志向性んじょ変化。
多様で異質なものの存在。
立体的で奥行きのある多様性。
物に人の関与が加わり、
物と人の無限の順列組み合わせが起ることで生まれるもの。
さらに歴史性という時間の軸が加わることで、
重層的な時間の蓄積を感じさせるものになるのである。


都市を買う・所有する・消費するのではなく、
都市を使う・利用する、
そして都市に関与することが魅力となる時代。(※6)


※1)この他、要因に1989〜90年の日米構造協議による円高誘導政策、公共事業投資の増額によるアメリカ型の流入による大型小売店の増加、零細小売店の死滅。また大店立地法規制緩和による既存商店街商店数の減少を挙げている。三浦はさらに地方で起こる犯罪の場所の近くにはジャスコがあることを発見し、こうした郊外化の象徴としている。ジャスコは地方に都会の消費文化をもたらし、地元民のライフスタイルを一変させた。地方の経済だけでなくコミュニティをも疲弊させてしまった。(ジャスコは街をつくらない。)
※2) 文化地理学者オギュスタン・ベルクの言葉
※3) 社会学者ジョージ・リッツアの言葉
※4) 年間家計消費支出額の地域ごとの推移を見ると1985年を境に地方都市が東京の上位になっている。ただ食べて、車で買い物し、レジャーに行く生活であるなら、
地方のほうが物価が安い分ゆとりのある暮らしができる。人・もの・情報すべてが東京と直結した暮らしになり、つまり大衆消費社会化が地方においてかなり進み実は東京並みの消費を行うようになっているのである。
※5)この他、日本列島改造論などに見られる田園都市論、エセ田園都市ファスト風土化した原因として挙げている。
※6)高円寺・下北沢・吉祥寺など。


自分自身漠然と感じていた問題を整理してくれて
明確な方向感を与えてくれたということで
★★★★★