「4ヶ月、3週と2日」監督・脚本・製作:クリスティアン・ムンジウ、主演:アナマリア・マリンカ



ちょっと薦められたので観てみました。
2007年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。


期待し過ぎたためか、
それほどのインパクトは受けなかったけど、
脚本・演出・役者のどれをとっても
映画としてクオリティはすばらしく高いと思った。
無駄な脚色など一切無い。



舞台は1987年、東西冷戦構造が崩壊する前の
チャウシェスク独裁政権下のルーマニア
中絶が違法行為である中、
妊娠してしまった友人の中絶を手伝うことに
奔走する主人公の一日を描いている。
そこに貧しい国の不安定な社会状況、
道徳倫理、
男女、女同士の微妙な関係のズレが重なりながら、
一人の女性の様々な心理状況や葛藤が
緊迫感をもった映像と
研ぎ澄まされた感覚で描かれている。


何もかも人に任せっきりで、
あまりに身勝手な友人を彼女が助けるのは
友情とか、同情とか
そういったセンチメンタルな感情のためではなく、
おそらく、もっと深遠なものだろう。
それは彼女の奥深くに堆積している正義感か、
あるいは理由すらわからない使命感のようなのかもしれない。
いずれにしても
そこに彼女の魅力が強さとなって現われてくる。
ある種、女性特有の強さなのかもしれない。
それが荒涼とした社会風土とも対峙して
いっそう彼女の魅力を引き立てる。
それゆえに、
彼女のことごとく不遇な状況の酷さ加減に
感情移入せざるを得なくなるのである。


とりわけ家族や親戚が集まっての食事のシーンは見ごたえ十分。
どこにでもある不毛な会話が延々と続く中、
その内容も含め、
彼女の置かれた不遇な状況が
2重3重の意味で浮かび上がってくる。
それは例えば
友人が気掛かりなのに帰れないという現実的な側面であったり、
彼女の生い立ちであったり、
そしてまさに今、彼女が置かれている状況そのものだったり。
それを定点カメラで捉えた1シーンで収めてしまうところに
この映画の質の高さを感じ取れる。


終盤にはショッキングなシーンが用意されている。
やはりこういう人間ドラマそのものを描いたような作品は
全体がぼやけないために、
いかにリアリスティックにあるか、
どれだけ遠慮なしに、
直截的な表現を使いきれるかも重要である。


もちろんエセ・ヒューマニスティックな
メッセージを込めた映画ではないのだが、
それを踏まえてあえて直截的に言うと
これを観れば容易に中絶することはなくなるだろう、と思う。


★★★★☆