「東京人生SINCE1962」荒木経惟


東京人生SINCE1962

東京人生SINCE1962


アラーキーが撮り続けてきた東京が
気の利いた言葉と共にずらりと並べられた写真集。


シビれた。
恥ずかしいこの一言が躊躇無く口から出てきた。
つまりそれくらいすばらしかったのである。
すべてを一読(一見)したあと、しばし放心状態。
何を今さらと言われても仕方ないけど、
これだけ一度に天才の諸作を見せられると
写真家でなくとも
言い知れぬ敗北感、脱力感に見舞われる。




撮る側の優しさが、人間味が伝わってくる写真群。
なんとなく、写真って撮る人の鏡なんじゃないかとも思った。
撮る人側の表情や気持ちが
そのまま撮られる側に映り込んでるんじゃないかと。
人でも街でも。
少なくとも妻陽子との悲しい別れに際しても
シャッターを切り続けた時の彼の心情は
間違いなく写真に写り込んでいた。


自然なフレーミングで、
最高の瞬間を捉えられた写真。


相手が身構える前、
飾らない状態でシャッターを切ってる。
相手が構えた瞬間、
そこには撮る者と撮られる者の境界が現れてしまう。
その前のほんの一瞬。
だから、かっこよすぎるとダメなことがわかる。
少し油断させて被写体との距離を縮める。
そしてパシャリ。
あるいはそうと気付かぬうちに。


距離が縮まる事で鏡になる写真。


そして彼の写真はどこかしら、もの哀しさが漂っている。
東京の街は明るく、
人は笑ってるんだけど。
その背後にある陰影が見え隠れする。
だからとっても深みのある写真。


おそらくそれはすべて最高の一瞬を撮り切っているからなんだろうと思う。
その時にしか手に入らない一瞬の表情が、
すでに手の届かないところにあるような、そんな感覚に見舞われる。
その時間は愛しくも儚いんだと思わせてくれる。


写真集としては格安の1500円(税抜)。しかも分厚い。
そんなところもまた泣かせてくれる。


只今江戸東京博物館にて
企画展「荒木経惟 -東京人生-」開催中。


http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/about/josetsu/dai2/2006/1017/1017.html


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