「芸術起業論」村上隆


芸術起業論

芸術起業論


あまり期待しないで読んだけど、意外と面白かった。
芸術家として生き残るための方法論が惜しみなく述べられている。
成功した人だからこそ説得力をもつ言葉の数々。時には過激に。




彼の戦略はこうである。
アートの中心はあくまで欧米にある。
まず欧米での評価を得て、これを元に日本に逆輸入し再評価を獲得する。
最後に再度本当にやりたかった事で勝負に挑む。
この方法によって評価の時間を短縮化させるというのである。


では、欧米で評価を得るにはどうすればよいのか。
ここで彼は「欧米の芸術の世界のルールをふまえること」の重要性を説いている。
この本で何度も繰り返されるのが、
欧米ではルールに根ざした独創性こそ評価されるということ。
まず戦うためには、その土俵、ルール、相手を知らないといけないということ。
具体的には、歴史を知ること。
その文脈に乗ることである。
もちろんアートにおける地平線が世界にあるということを前提にした話であるが。


日本の芸術は北斎写楽といえども、
ジャポニズムというあくまで欧米側から認められた
欧米の美術の歴史の穴埋めでしかないという。
日本式の純真無垢な自由で独創的な芸術では、
欧米では全くもって通用しないのである。


そして、そこでの芸術の評価基準は価格であり、
したがって、より客観的な評価が求められるという。
その芸術作品を買うに値する裏付け、
つまり物語を付加することが必要になってくるのである。
そのためには高いコミュニケーション力、プレゼンテーション力が必要であるという。
とりわけ分かりにくい日本独特の文化を欧米の世界に理解してもらうためには
相当のテクニックが要ると。


しかし気になるのは、日本の知的芸術資源は
「かわいい」と「オタク」であると断言していることである。
彼はアートとは「世界で唯一の自分を発見し、
その核心を歴史と相対化させつつ、発表すること」といっているが、
自分自身を突きつめれば、
必ず日本人としての自分というものに向き合うことになる。
その到達点が敗戦によって主体性を失った日本の行き着く先の
オタク文化、マンガ文化という
サブカルチャー、ロウアートというのも悲しいと言えば悲しい。
しかも、これらの文化の起源が手塚治虫によるところの
ディズニーという強力なアメリカ文化に根ざしているのであれば、なおさらである。
もちろんこれを確信犯的に欧米の文脈に乗せて、
日本の芸術の欧米への門戸を開いた功績は大きいと思うけど。


★★★★☆