「アフターダーク」村上春樹


アフターダーク (講談社文庫)

アフターダーク (講談社文庫)


物語は深夜12時になろうとしている都会のファミレスではじまり、
夜明けまでのごくごく短い時間の出来事、
というよりは一人の女性の心情の変化を追ったもの、
とでも言えばいいだろうか。
そして同時刻に眠り続けるもう一人の女性の身に
何かがおこりはじめ・・・。




心象世界なのか現実世界なのか分からないような境界線上を巧みに操りながら、
その深く暗い闇の世界を夜明けと共にとき解いていくようなそんな感じである。
もちろん例のごとく、多くは解き明かされないままなんだけど。。。


この小説では第三者の話者として観念的な視点という、
村上春樹の新たな試みが面白かった。
視点が自由に動き回り、映像的、映画的な小説世界をつくり出している。
これが不思議な高揚感を生み出し、暗い闇の情景を鮮やかにする。
と同時に、僕という一人称的視点を失い、第三者の視点を得たことで、
全体にある種啓示的な印象を強め、
小説の舞台同様、深淵な世界へと導く。


村上春樹が多くの読者の興味を引くのは、
意識的にしろ、無意識的にしろ、
人間の内奥にある何かを感じ取るからなんだろうと思うけど、
その何かが未だに分からない。


そして相変わらず、彼独特の世界観でしか成り立たない人たちの会話は
無駄がなく、示唆に富んでる。心憎いです。


★★★★☆