「鏡子の家」三島由紀夫


鏡子の家 (新潮文庫)

鏡子の家 (新潮文庫)


時代は違えど、今と変わりない生きることへの
不安、焦燥、倦怠などが
生きる美学とでもいうべき
三島のストイシズムによって
美しく精緻な文体と文章表現をもって描かれている。


時代は朝鮮戦争が終り、
一時の投資景気が過ぎ去った、不況の頃。
若者たちは退屈していた。
大学生であり拳闘選手の峻吉、
美貌を持ちながらも売れない役者の収、
画家の夏雄、
エリートサラリーマン清一郎。
彼らは資産家令嬢、鏡子の家に集う仲間であるが、
各々が自身の信念に基づいたストイシズムに生き、
互いに干渉しあうことはしない。
夫を追い出し、娘と二人で暮らす鏡子もまた同じである。
物語は彼らの栄華とその崩落を描いた群像劇である。


登場する4人の男たちが三島の分身であるのは定説の通りだろう。
彼は4つの人格を客観的に使い分けることによって
自分自身の存在を定まった像として
投影しなおそうとしていたのかもしれない。
或いはそんなことはすでに承知の上で、
別の自分を見出そうとしていたのかもしれない。
だとすれば、
三島が最後に希望を託したのは夏雄だった。


作中人物同様、序盤はやや退屈であったことは否めない。
3人称で語るためか、感情移入しにくく
金閣寺」や「仮面の告白」に比べ
やや間延びした感じがする。
しかし第二部に入って、静かに流れていた各々の生活が
徐々に崩れ始めるあたりからは、一気に引き込まれた。
もう一度読み直してみたい感覚に襲われるのは
この物語がめくるめく日常生活の
輪廻のようなものに感じるからだろうか。


★★★☆☆