「磯崎新の「都庁」」平松剛


磯崎新の「都庁」―戦後日本最大のコンペ

磯崎新の「都庁」―戦後日本最大のコンペ


前作の安藤忠雄の「光の教会」も良かったけど、
今回もかなり面白く、読み応えのあるものだった。


1985年に行われた新都庁舎コンペへの取り組みを舞台に、
彼の師である丹下健三との関係、
また彼らを取り巻く日本建築界も含めて
思想的、あるいは政治的背景までもあぶり出し、
臨場感をもって描かれている。




建築家にとっての戦場であるコンペを軸にしながら、
彼の半生と織り交ぜ、時代を行き来し、
じらしながら早く先を読みたくなる構成は見事である。
どうやって調べたんだろうと思うほど、
その時々の情景が見事に描き出されていて、
結果として磯崎という人物像をくっきりと浮かび上がらせている。
磯崎ほどの人間でも苦悩しながら建築に取り組んでいる姿に
建築に携わるものとして励まされる。
少なくとも今の自分にとっては良い薬になった。
これまで近づきがたかった磯崎という巨人が
少しだけヒューマンスケールに落とされた。


半分以上彼の伝記でもあり、
さながら磯崎新の入門書といったところか。


コンペにおいて
丹下は高層・軸線・シンボル・ツリー構造を
磯崎は低層・錯綜体・リゾーム・広場を
キーワードに案を練りあげた。
師弟関係にありながら対極にある二人の大建築家。


丹下の背後には常に帝国、つまり国家が存在し、
権力の元、その建築家としての地位を築いてきたのに対し、
磯崎は常にアナーキーにあり続けた。
少年時代に敗戦を体験し、
空襲や原爆によって
「実体をもった都市が瞬時に消滅してしまう現実」を
目の当たりにした彼は
「未来都市は廃墟そのものである」とまで謳った。
その後も前衛的芸術の潮流が現れる中、
自身もアバンギャルドな仲間達との交流に身を起き、
今も尚、建築界の最前線に居る。


また彼らを取り巻く
岸田日出刀を筆頭に
岡本太郎鈴木俊一赤瀬川隼ら、
さらに若かりし頃の
古市徹雄、青木宏、菊池誠渡辺真理青木淳らの登場も興味深い。
ラストはおまけにレム・クールハースまで。