「毒身」星野智幸
- 作者: 星野智幸
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/07/14
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (15件) を見る
ファンタジスタが結構良かったので、
もう一冊彼の著書を読んでみた。
大分趣向が違う感じだったけど、
やはりラテン系の熱気を漂わした、
異国情緒溢れる雰囲気を感じさせる独特の小説世界で、
これはこれで良かった。
三作品が収められていて、
どれもタイトルに「毒身」とついている。
独身者のみが入居できるアパートの住人たちの
不思議な共同生活が描かれた「毒身温泉」が
その中で、ほとんどを占めている。
アパートの中庭にはマンゴーが生り、
ハンモックがぶら下がっている。
そこは外とは別世界でありながら
しかし、決して閉ざされている感じはしない。
不思議と外の世界と繋がっている。
そこでは性別をも超越した人間の繋がりの中で
不思議な共同生活が営まれている。
カタカナで表記される登場人物たちは
意図的に男女の境界を曖昧にされているようである。
そんな魅力的な場所での
平穏な日々に隠された、小さな苦悩ややるせなさ、
またそこにある生活の小さな喜びを
特に誇張することも無駄な脚色によって濁すこともなく、
丁寧に掬い取るように描写されている。
その誠実な描写力に好感が持てる。
これはどく身者のバイブルとして重宝しよう。
★★★☆☆