「毒身」星野智幸


毒身 (講談社文庫)

毒身 (講談社文庫)


ファンタジスタが結構良かったので、
もう一冊彼の著書を読んでみた。
大分趣向が違う感じだったけど、
やはりラテン系の熱気を漂わした、
異国情緒溢れる雰囲気を感じさせる独特の小説世界で、
これはこれで良かった。


三作品が収められていて、
どれもタイトルに「毒身」とついている。
独身者のみが入居できるアパートの住人たちの
不思議な共同生活が描かれた「毒身温泉」が
その中で、ほとんどを占めている。




アパートの中庭にはマンゴーが生り、
ハンモックがぶら下がっている。
そこは外とは別世界でありながら
しかし、決して閉ざされている感じはしない。
不思議と外の世界と繋がっている。


そこでは性別をも超越した人間の繋がりの中で
不思議な共同生活が営まれている。
カタカナで表記される登場人物たちは
意図的に男女の境界を曖昧にされているようである。


そんな魅力的な場所での
平穏な日々に隠された、小さな苦悩ややるせなさ、
またそこにある生活の小さな喜びを
特に誇張することも無駄な脚色によって濁すこともなく、
丁寧に掬い取るように描写されている。
その誠実な描写力に好感が持てる。


これはどく身者のバイブルとして重宝しよう。


★★★☆☆