「庭の桜、隣の犬」角田光代


庭の桜、隣の犬 (講談社文庫)

庭の桜、隣の犬 (講談社文庫)


小説には永代読み継がれていくものと
その時代時代に必要とされ消えていくものがあるとすれば、
これはまさしく後者である。
まさに今読むべくして生まれてきたものと言ってよいだろう。


モノはあっても物語がない。
作者はそんな時代を鋭く感じ取とりながら
それでも尚、
前を見つづけることの意味を見出そうとしている。


時代感覚にすぐれた作家が、
その空気をまったく濁すことなく、
一つの物語にしてみせた。




東京郊外で何不自由なく生活する夫婦。
しかし二人が共有する生活は薄くて脆い。
次第にその関係の危うさが露になって、
いつの間にかどん底まで堕ちてしまう。


それでも、彼らの会話は妙に楽天的で
とても軽やかである。
それが逆に乾いた空気を強調して
不穏な雰囲気を醸し出す。


乾ききった二人の生活は、
今の時代どんな夢物語を描くことができるのか
そんなことを考えさせられる。


だからこそ、今読まなければ意味がないし、
そして、明日には読み捨てなければならないものなのだ。


★★★★☆