「生物と無生物のあいだ」福岡伸一


生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)


ウイルスは細胞に寄生することで自己複製能力をもつ。
生命とは自己複製するシステムという定義では
ウイルスは生物である。


しかし、
「ウイルスは、栄養を搾取することができない。呼吸もしない。もちろん二酸化炭素を出すことも老廃物を排泄することもない。つまり一切の代謝を行ていない。ウイルスを、(中略)結晶化することができる。(中略)結晶は同じ構造を持つ単位が規則正しく充填されて始めて生成する。つまり、この点でもウイルスは、鉱物に似たまぎれもない物質である。」


この点で著者はウイルスが生物であることに異議を投じ、
生命を正確に定義づける方法を探る。




話はまず自己複製するシステムという定義に基づいて、
DNAが発見され、その構造が解明されていくまでのドキュメントから始まる。
DNAはA,C,G,Tの四文字からなるひも状の物質で
AとT、CとGがそれぞれ対応した二本鎖のペア構造となっている。
これが何を意味するのかというと、
「一方の文字列が決まれば他方が一義的に決まる。あるいは二本のDNAのうちどち
らかが部分的に失われても、他方をもとに容易に修復することが可能である。」

ということ。
2重ラセン構造の理由が相補的なもので
これがつまり自己複製機構であることが記されている。


ここでシュレーディンガーの著書「生命とは何か」における問い
「なぜ原子はそんなに小さいのか?」をもとに次の問題に移る。
原子はなぜ小さくなければならないか、
裏を返せば生物体の大きさに対する問いである。
原子にくらべわれわれ身体はなぜこれほど大きくなければならないのか。


「それは、すべての秩序ある現象は膨大な数の原子(あるいは分子)が、一緒になって行動する場合にはじめて、その「平均」的なふるまいとして顕在化するからである。原子の「平均」的なふるまいは、統計学的な法則に従う。そしてその法則の精度は、関係する原子の数が増せば増すほど増大する。」


拡散はその途上では濃度勾配という情報をもたらすが、
やがては一様に広がり平衡状態に達する。
これは物質の勾配に限らず、温度、エネルギー等についても同様で、
熱力学的平衡状態、あるいはエントロピー最大の状態と呼ばれる。
その世界の死である。
エントロピーとは乱雑さ(ランダムさ)を表す尺度であり、
すべての物理学的プロセスは、
物質の拡散が均一なランダム状態に達するように、
エントロピー最大の方向へ動き、そこに達して終わる。
エントロピー最大の法則)


生物はこの平衡状態に陥るまでに
成長し、自己を複製し、怪我や病気から回復し、長く生き続ける。
つまり生命は、
「現に存在する秩序がその秩序自身を維持していく能力と
秩序ある現象を新たに生み出す能力をもっている」ということになる。


「生きている生命は絶えずエントロピーを増大させつつある。つまり、死の状態を意味するエントロピー最大という危険な状態に近づいていく傾向がある。生物がこのような状態に陥らないようにする、つまり生き続けていくための唯一の方法は周囲の環境から負のエントロピー=秩序を取り入れることである。実際、生
物は常に負のエントロピーを「食べる」ことによって生きている。」


エントロピー増大の法則に抗う唯一の方法は、
システムの耐久性と構造を強化することではなく、
むしろその仕組み自体を流れの中に置くことなのである。
つまり流れこそが、生物の内部に必然的に発生するエントロピー
排出する機能を担っていることになる。


かくして「生命とは動的平衡にある流れである」という結論に達している。


★★★★☆