「ひとり日和」青山七恵


ひとり日和

ひとり日和


第136回芥川賞受賞作。


テンポが良く、瑞々しい。そして上品だ。
優れて現代的な感性に支えられた小説だと思った。


東京郊外の一軒家に一人暮らしていた70歳過ぎの老女と一緒に
新しい生活を始めた20歳の女性が
一年の季節と共にゆっくりと変化していく様子を
今後踏み出していく人生の序章として描いた作品。




閉塞的になりがちなそんな設定にも関わらず、
常にどこか開かれた小説世界を感じさせる。希望がある。
おそらくそれは、家から見える駅のホームが
外の世界の象徴として、
度々、主人公の女性の心情に重なって登場してくるからだろう。


この駅のホームをはじめ、
鴨居の上に並べられた猫の写真や
軽い盗癖からくすねて集めた物など
様々なモチーフを効果的に、そして巧みにさらりと用いながら
これから長い人生を歩みだしていくことになる
一人の女性が抱える不安や虚しさを的確に表している。


どうもこの作家は感性が鋭く、観察力に優れているようだ。
生活における細かい動作や仕草、
見過ごしてしまいがちな日常風景が
とても正確に、丁寧に描かれている。


まったく飾らない描写のためか、
物語り自体、あっさりした印象を与えるが
でも、不思議なあたたかさがある。
淡々と積み上げられていくそうした人物像は
よりリアルにその存在が感じられるため、
知らないうちにとても密度の濃いものになっている。
そこに小さな変化がもたらされたときの反応の振幅も大きい。
小さく感じていた老女の存在が
主人公の女性と交わす最後の意外なやり取りによって
ものすごく大きなものとなる。
と同時に、そこで、ぐぐっと物語自体の奥行きが増す。


最後にジワっとくる。


★★★★☆