「くっすん大黒」町田康


くっすん大黒 (文春文庫)

くっすん大黒 (文春文庫)


町田康の処女作。


どうしようもないダメ男ぶりを書かせたら彼の右に出るものはいないのかも。
アホらしい事を真っ直ぐまじめに考えることからくる毒のある視点やユーモア。
絶妙である。
パンクバンドという経歴をもつ著者ならではのセンスを感じさせる。
そのテンポの良い落語のような語り口調とユーモアをもって、
全体としてまるで一篇の詩を詠んでいるよな気分にさせてくれる。




物語は家に転がっていた「不愉快きわまりない大黒様」を捨てに行くことから始まる。
そんな大黒様との関係から退廃的な生活を感じながらも
まったく躊躇することも反省することもなく、
(これはある意味うらやましくもある)
ただひたすら目の前の問題にだけに目を向けて突き進む主人公。
とにかくひたすらまっすぐ突き進む。気持ちがよい。


その成り行きをただツラツラと書き綴ったような話と言ってしまえばそれまでだが、
自然な日常の流れとはかけ離れた、その無気力で無意味で無節操ぶりがたまらない。
その日暮らしのどこか浮世離れした生活の楽天的な世界観に
徐々に読者を引き込んでしまう。


登場人物たちもみな魅力的。
主人公と同じく、どうしようもないダメっぷりを見せてくれるのだが、
何故か憎めない。
肩肘張らない脱力感・虚脱感を持ってして
どんな人間をも直視して揺るぎがない作者の姿勢は
生きることそのものの意味を実は真摯に問うているのではないかと思わせる力がある。


他「河原のアパラ」併載。
これも良かった。


ダメっぷりは同じである。
そして、とにかく突き進む。迷いがない。
実は相当な問題、事件が起きてるはずなのに
まるで日常の延長にあるかのような振る舞い。


何故だが活力にみなぎる小説である。


★★★★☆