「シンセミア」阿部和重
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とある田舎町<神町>でのひと夏の出来事を
膨大な登場人物をもって描いた長編小説。
その夏を迎えるまで表面的にはうまく廻っていた町の営みが狂いだし
町の終焉(始まり)へと向けて、徐々に物語は展開していく。
何かしら問題を抱え、社会性を欠如した登場人物達は
表面的な人物像を一切剥ぎ取られ、
リアリティのある描写を伴って徹底して醜く、魅力に欠けている。
嘲笑的な作者の視点を基点に、
これらの登場人物の視点をめまぐるしく移り変わりながら
その町に起こる事件、出来事が映し出されていく。
所々にあるドキュメンタリー色を強めるための細工によって
不思議な真実味を帯びながら
<神町>の異様な様相が露わになっていく。
すべてにおいて無駄のない構成。
次から次へと繰り出される様々な事実が複雑に絡み合いながらも、
細部まで徹底して気を配って描かれ,
偽りや誤魔化しがまったくないので読者の想像力を借りることが全くない。
実に単純に、強かに組み立てられている。
最後の一文まで。
そして内容はもとより、その表現方法がかなり衝撃的だった。
まったく飾り気、誇張のない文章でありながら屈強で流麗な文体で記される
病的、暴力的テーマへの直截的な表現のオンパレード。
小説内では大小様々な善悪、美醜の出来事、心理、思考が平滑に並べられ、
すべての物事が等価に扱われている。
(そのことは語り手自身をも物語に投げ込み、
作中の登場人物と同等に並べられてしまうことに象徴されているように思う。)
小説における暗黙の了解をことごとく打ち破り、
全く新しい小説の形式を生み出している。
潔いというか、ふてぶてしいというか・・・
とりわけ時折現れるゴシック体の太字部分は
単なる強調文字として汎用されているものではなく、
物語や人間心理のより深部に触れたときに現れているようである。
不意に現れると
人の奥底にある感情が思わず吐露されてしまったみたいで不気味である。
エンターテインメントとして、また純文学としても見事な小説。
でもこれ、正月から読む本じゃなかったかも。。。内容が重すぎた。
★★★★☆