審判

審判 (岩波文庫)

審判 (岩波文庫)


不条理小説。
主人公ヨーゼフ・Kが身に覚えのない罪によって訴訟を起こされ、得体の知れない司法制度に巻き込まれていく。そして最後は・・・。


その背後にある怪しい組織の正体が徐々明らかになっていくこともなく、そして知らず知らずの内にその状況から抜け出せなくなっていき、ただ延々と同じところを回り続けているようで、それが不安を煽っていきます。また主人公を取り巻く登場人物に感情がなく(あっても表層的で、印象としてはマネキンが動いたり喋っているような感じ)不気味でした。ただ対照的に主人公の滑稽なキャラクターが際立ち、多くの場面で楽しませてくれます。その辺の掛け合いも見事です。




また一切その罪の内容について語られる事もなく(もちろん主題とは関係ないから構わないんだろうけど、というより意図的なんだろうけど、それがちょっと読みづらくしているような・・・)、なんとも奇妙な小説です。そして最後の作中劇「掟の門」にこれらの不条理世界が集約され、ヨーゼフ・K共々読者もある事に気付かされ、カフカの思想を垣間みることになります。


明らかに国家的な制度化されたものであれば、その範疇で対応の仕方もあるんだろうけど、相手の存在が日常的な存在からかけ離れたものだと、対処の仕方も分からず、個人というものが脱力化していくみたいです。つまり、属するものの中で構成され、対応関係がはっきりしないと、その意味すら失われて人間ってほんと無力化しちゃうんだなと感じました。それが国家であったり、会社であったり、家族であったり、スケールは違えど、完結している関係社会の中でのみ働く秩序が崩壊してしまうことは同じだと思います。また、それらが連続してないと、各々の完結性も失われてしまうような気がしました。普段は守ってくれている権力組織の存在も、自分の反対側に行ってしまうと恐いものですね。


とにかく色々考えさせられる小説で、カフカの「変身」がザムザの視点を中心に社会の不条理を描いてるのに対し、「審判」はもっと俯瞰的な視点で描かれている気がしました。


あと、なんとなく安部公房の「砂の女」や村上春樹の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を思い出しました。多分少なからず影響与えてるんだろうと思います。


★★★☆☆