「パイロットフィッシュ」「アジアンタムブルー」「九月の四分の一」大崎善生


パイロットフィッシュ (角川文庫)

パイロットフィッシュ (角川文庫)


久しぶりに読み直してみた。
装丁とタイトルが良いなぁと思って手に取った一冊。
主人公の青春期が透明な水槽と記憶の湖になぞられて描かれている。その世界が水槽のよう狭く関係し合っているのは、まあ小説だからとして、水に表象されることで、より一層青春期特有の純粋な世界を謳いあげている。




最初の1ページこの本にテーマがすべて詰め込まれていると思う。
人は、一度巡り合った人と二度と別れることは出来ない。なぜなら人間には記憶という能力があり、そして否が応にも記憶とともに現在を生きているからである。・・・」
そして最後の方の会話で繰り返されているが、
「忘れるということは表層的なことで、それは忘れているだけで消滅しているわけではないんだ。とりあえず必要がなくなって心の湖みたいな場所にどんどん放りこまれているだけで、だけど何かの拍子にそれは浮かび上がってくる。」


人として生まれてきた宿命か、二度と手に取ることの出来ない過去の記憶と共に人間は生きていかなければならないし、そのことが人の一生をより深く儚いものにしているのではないかと。


パイロットフィッシュとは生態系のない水槽内に、いい状態のいい割合のバクテリアの生態系を作り出しすために、一番最初に入れる魚のこと。そして本命の魚を入れるときに捨てられてしまう、哀しい存在らしい。。。


読み進めていくうちに、周りの人間たちが主人公のためのパイロットフィッシュなのかと気づくとちょっと切なくなる。。。


★★★★★+


アジアンタムブルー (角川文庫)

アジアンタムブルー (角川文庫)


第二作目だけど主人公は前作パイロットフィッシュと同じ設定で世代を違えて書いている。まあ、純愛小説ってやつです。愛する人が癌とわかって南仏ニースへ。愛する人が徐々に小さく消えていくような切ない2人の最後の日々。そして彼らを取り囲む優しい人々。


★★★★☆


九月の四分の一 (新潮文庫)

九月の四分の一 (新潮文庫)


短編集四部作。
「報われざるエリシオのために」
チェス、イフ・アイ・フェル、ビートルズ
ケンジントンに捧げる花束」
将棋 アズ・ティアーズ・ゴー・バイ、ストーンズ
「悲しくて翼もなくて」
ロックンロール、ツェッペリン
「九月の四分の一」
パリ、ブリュッセル、小説、ジャン・ポール・サルトル、ダンシング・クイーン、アバ


物語を彩る言葉、文体、音楽が一つになって優しく美しく綴られている。


★★★☆☆