プレーンソング

ミクシィで書いてたレビューをこっちに統一していくことにした。まずは


プレーンソング (中公文庫)

プレーンソング (中公文庫)


旅で出会った青年に薦められて読んだ本。


何もない日常、それ自体が小説になることを証明してくれた作品。




物語は「僕」の部屋に集まってくる若者達の日常が淡々と描かれながら進んでいく。しかし読んでも読んでもこれといって事件が起きるわけはなく、出てくるのは猫と競馬の話ぐらい。ただただゆっくりと流れる時間が定点観測のように描かれていく。どうでもいいことまでが繊細に語られ、小さいことも大きい事も同じように扱われてしまうことが不思議と幻想的な小説の風景を作り上げている。


そして「僕」によって語られる小説の風景は実はこの「僕」を中心に回っているのではなく、彼を取り巻く他の者たち、時によう子だったり、ゴンタだったりと、或いはネコだったりと互いの存在を確かめ合うように移り変わっていき、ただただゆっくりと時間だけが正確に流れていく。最後の海にぷかぷか浮かびながら延々と続く「いいねえ、海は」の情景は物語り全体がノスタルジックな儚さではなく、普段感じることのない日常の平和を一瞬という一点に集約させたようなもっと現実的な儚さであることを感じさせる。


そういえば最後になって季節がいつの間にか夏になっていたんだなと気付いた。


これの前に読んだ「この人の閾」では独特の理屈っぽい言い回しに正直イライラしてしまったけど、慣れてくるとだんだん気持ちよくなってきた。

★★★★☆