とある小説から


「感性の集合体だったはずの自分がいつからか記憶の集合体になってしまっている。(中略)今、自分にある感性も実は過去の感性の記憶の集合ではないかと思って、恐ろしくなることがある」(「パイロットフィッシュ」(大崎善生)より)


過去の記憶が今の自分の感性に影響を与え続けるということ。




確かに生まれたときの何の記憶も無い状態というのは、無防備に何でも受け入れていくわけで、先天的な感性だけがその個人の判断基準になっている。
しかし大人になるにつれて徐々にそこに記憶というものが埋め込まれていくことで、感性と記憶の両方が判断基準になっていく。
恐ろしいのは、知らない間に感性がほとんど磨り減って記憶だけにしか頼ることが出来なくなってしまうこと。意識的であっても無意識的であっても。


ということは、単に経験が多ければ多いほど良いというわけではなく。必要なのは良質な経験こそ積んでいくことなんだなと、そして先天的な感性は残していくべきなんだなということ。