「青いパパイヤの香り」監督:トラン・アン・ユン


青いパパイヤの香り ニューマスター版 [DVD]

青いパパイヤの香り ニューマスター版 [DVD]


とある雑誌*1石上純也が絶賛していたので観てみた。


で、観てみると
なるほど、彼が気に入るのが何かわかる気がした。




1951年ベトナムサイゴン
一人の少女が貧しい家計を支えるため、
とある地主の家に働きに来る。
地主の妻は死んだ娘に似たその少女に愛情を寄せるが
やがて少女は成長し家を出て行く。
新しい場所で
彼女は身分の違う男性を愛するようになり・・・


ストーリーは至ってシンプルなものであるが、
何よりこの作品を魅力あるものにしているのは、
長回しによって映し出される
人々の生活の風景である。
亜熱帯植物に囲われた楽園のような場所は
家の中と外の関係がすごく曖昧で
そこを行き来する家族と使用人たち複数人の動きを
カメラがゆっくりと追って捉える。
東南アジア独特の雰囲気に包まれた中で営まれる生活が
とても魅力的に感じられる。


あとで分かることだが、
この時代貧しい家庭ではきちんとした教育を
受けることができないためか、
少女は年齢の割には言葉や知識に乏しい。
時折、虫や植物などの自然に
異様なほどの関心を示すシーンがあり、
なんだか哀しくもあるのだが、
言葉を持たない美しさも感じられる。


しかしここでの使用人と家主の関係は
とても友好的である。
グローバリズムの名の下に
多くの雇用形態が、
ただただ経済的な契約に過ぎないものになるよりは、
こうした主従関係がまずあって、
その上で経済上にも支えあっているという方が、
実は自然なんじゃないかとさえ思ってしまう。
もちろん単純にそういい切ることは出来ないけど。


★★★☆☆

*1:DITAIL JAPAN 別冊